労働災害(労災事故)により手指を切断した場合、どのような後遺障害が認定される可能性があるのか、また、会社に対してどのような賠償請求が可能なのかを、弁護士がわかりやすく解説します。
1 手指の切断が発生する業種と事例
まずは、手指の切断事故が起こりやすい業種とケースを解説します。
(1)製造業(金属加工・木材加工)
製造業の現場では、プレス加工機、旋盤・フライス盤・ボール盤などの回転機械、切断機、のこぎりなど、手指に直接接触する機械を使います。
そのため、これらの機械の操作ミスや故障などにより、手指が機械に挟まれる、圧力をかけられる、刃に当たるなどして、手指切断事故が発生します。
(2)建設業
電動工具(グラインダー、チェーンソー、丸ノコ)を使用する際に、不注意による操作ミスや、刃の接触などで、手指切断事故が発生します。
(3)型枠大工や鉄筋作業
重量物の落下や鋭利な部材での挟み込みなどで、手指切断事故が発生します。
(4)運輸・倉庫業
フォークリフトや搬送機の荷物に手を挟まれたり、トラックの荷台での固定作業中の誤操作により、手指切断事故が発生します。
(5)農業・林業
収穫機や草刈機などの巻き込みの作業中や、チェーンソー作業中に、手指切断事故が発生します。
(6)食品加工業
肉や魚のスライサー・ミンチ機に手袋が巻き込まれたり、掃除中に電源を切り忘れたまま触れてしまうといったことから、手指切断事故が発生します。
2 手指切断による後遺障害等級の目安
手指を切断する程の労災事故の場合、当然、後遺障害が残ります。
具体的には、その程度に応じて、以下の後遺障害等級に該当することになります。
第3級5号 | 両手の手指の全部を失ったもの |
第6級7号 | 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの |
第7級6号 | 1手の親指を含み3の手指又は親指以外の4の手指を失ったもの |
第8級3号 | 1手の親指を含み2の手指又は親指以外の3の手指を失ったもの |
第9級8号 | 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの |
第11級6号 | 1手の人差し指,中指又は薬指を失ったもの |
第12級8号の2 | 1手の小指を失ったもの |
第13級5号 | 1手の親指の指骨の一部を失ったもの |
第14級6号 | 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
3 労災保険と後遺障害等級認定の仕組み
後遺障害等級認定とは、「労働者災害補償保険法」に基づき、労働基準監督署が労働者の申請に基づいて、障害の程度を判断する制度です。
ここでは、労災保険の仕組み、労災が認定される要件、労災給付の申請方法、そして、後遺障害等級認定の流れを説明します。
これらを正しく理解し、適切な等級を獲得することが、将来の補償額に大きく影響します。
(1)労災保険の概要
「労働者災害補償保険法」という法律の第1条は、次のように規定しています。
「労働者災害補償保険は、業務上の事由、(中略)又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、(中略)又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。」
このように、労災保険は、労働者が仕事中(通勤途中も含みます。)にケガをしたり、病気になったとき、お亡くなりになったときに、必要な補償を受けられるようにして、被災した労働者や亡くなった場合のご遺族の生活を守る制度です。
そのため、企業には、労災保険への加入が義務付けられています。
そして、労働災害が発生したときには、労働基準監督署に対し、労災保険給付を申請することになります。
(2)労災認定の要件(業務遂行性・業務起因性)
業務中に発生した事故が労災として認められるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2点がポイントになります。
「業務遂行性」とは、労働者が事業主の支配ないし管理下にある中で起きた事故である、ということを言います。
例えば、工場で大きな機械を操作する際に、操作ミスにより手が機械に巻き込まれてしまい、切断したということであれば、業務遂行性は認められることになると思われます。
「業務起因性」とは、業務に伴う危険が現実化したこと、つまり、業務と結果(ケガや病気、死亡)の間に因果関係があることを言います。
工場内において、機械を作業している際の事故であれば、一般的には業務起因性は認められやすいと思われます。
(3)労災給付の種類と申請方法
給付の内容に応じて、労働基準監督署へ給付申請を行うことになります。
申請後、労働基準監督署の判断を経て、支給の決定がなされれば、給付を受けることができます。
【給付の内容の例】
① 療養(補償)給付
労災病院や労災指定病院等を受診・治療する場合には、当該病院に「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を提出し、請求します。
それ以外の医療機関を利用して受診・治療した場合には、費用を立て替えた上で、労働基準監督署に「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を提出し、請求します。
例えば、治療費や薬代、器具の費用、施術費用などが給付の対象になります。
② 休業(補償)給付
労働基準監督署に「休業(補償)給付支給請求書」を提出し、請求します。
③ 障害(補償)給付(後遺障害はこれです。)
労働基準監督署に「障害(補償)給付支給請求書」を提出し、請求します。
(4)後遺障害等級認定の流れ
「後遺障害等級の認定」とは、労働災害によって負ったケガや病気が治った後も、身体等に一定の障害(後遺障害)が残ってしまった場合に、その障害の程度について、労働基準監督署が認定する制度です。
認定までの流れとしては、以下の通りです。
① 症状固定(治療を続けてもこれ以上の改善が見込めない段階)
② 後遺障害診断書の作成(医師により作成)
③ 労働基準監督署に対して申請
④ 労働基準監督署による審査
⑤ 等級の認定
(5)適切な等級を獲得する重要性
労働基準監督署により後遺障害等級が認定されると、1~7級については障害補償年金、8~14級については障害補償一時金が支給されます。
会社に損害賠償を請求する場合、この等級に応じて請求することになります。等級が重ければ重いほど、会社に対する損害賠償の金額は大きくなります。
つまり、会社に対して適切な金額の損害賠償を行うためには、適切な等級認定を獲得する必要があります。
(6)適切な等級を獲得するには?
当事務所では、適切な後遺障害等級を獲得するため、等級認定サポートを行っております。
適切な等級認定を獲得したいとお考えの方は、お気軽にお電話ください。
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4 会社に対する損害賠償請求
労災保険による補償とは別に、会社に損害賠償請求できる場合があります。
ここでは、この会社に対する損害賠償を解説します。
(1)何が請求できるか?
典型的には、後遺障害慰謝料と逸失利益が考えられます(その他に、傷害慰謝料や休業補償の未補償分等々がありますが、ここでは割愛します)。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによる精神的損害に対する慰謝料です。
逸失利益とは、後遺障害が残ったことにより生じた「労働能力喪失」の分、将来獲得することができなくなった収入を意味します。
例えば、冒頭で紹介した等級に対応する慰謝料と労働能力喪失率は、以下のとおりです。
第3級5号 両手の手指の全部を失ったもの | 慰謝料1990万円、労働能力喪失率100% |
第6級7号 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの | 慰謝料1180万円、労働能力喪失率67% |
第7級6号 1手の親指を含み3の手指又は親指以外の4の手指を失ったもの | 謝料1000万円、労働能力喪失率56% |
第8級3号 1手の親指を含み2の手指又は親指以外の3の手指を失ったもの | 慰謝料830万円、労働能力喪失率45% |
第9級8号 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの | 慰謝料690万円、労働能力喪失率35% |
第11級6号 1手の人差し指,中指又は薬指を失ったもの | 慰謝料420万円、労働能力喪失率20% |
第12級8号の2 1手の小指を失ったもの | 慰謝料290万円、労働能力喪失率14% |
第13級5号 1手の親指の指骨の一部を失ったもの | 慰謝料180万円、労働能力喪失率9% |
第14級6号 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの | 慰謝料110万円、労働能力喪失率5% |
(2)どのような場合に会社に損害賠償を請求できるのか?(要件)
労災事故により、手指を切断した場合、常に、会社に損害賠償請求ができるというわけではありません。
一定の要件が必要となります。
一つは、安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償です。
会社には、「労働者が安全かつ健康に働くことができるように配慮する義務」という安全配慮義務があります。この安全配慮義務を実践していないことを理由として損害賠償を行えるかを検討する必要があります。
もう一つは、不法行為に基づく損害賠償です。
例えば、会社の同僚が過失により被災者に加害を加え手指の切断が生じた場合等は、会社はその使用者責任を負う可能性があります。
(3)具体的な裁判例(東京地方裁判所平成27年4月27日判決)
事案:勤務先工場内のプレス機械で作業中の原告が、左手をプレス部分に差し込んで左4指切断の負傷をしたという事故に遭ったもの。原告は、平成24年8月4日付で症状固定と診断され、亀戸労働基準監督署長から同年11月15日,後遺障害等級8級の認定を受け、会社に賠償請求したという事案。
判決:勤務先会社がプレス機に安全カバーや自動停止装置を取り付けなかったことによる安全配慮義務違反を認め、
休業損害 242万0376円(原告主張額・同額)
後遺症逸失利益 2701万7003円(原告主張額・4638万0590円)
傷害慰謝料 179万円(原告主張額・同額)
後遺症慰謝料 830万円(原告主張額・同額)
を認めたうえで、原告の過失も4割認定し、1651万7514円と遅延損害金の支払いを命じました。
(4)専門家へご相談を
会社に対する損害賠償請求は、そもそも請求しうるのか、幾ら請求できるのかという判断から、実際にその請求を行う示談交渉・訴訟遂行という極めて専門的な知見が必要となります。
ぜひ、専門家である弁護士にご相談ください。
5 労働災害に遭ってしまった際は、ぜひ当事務所へご相談ください。
労災事故において、手指を切断するような大事故に遭ってしまった場合には、生活に大きな影響が生じる可能性があります。
そこで、適正な後遺障害認定を受けなければなりません。
また、会社に対して損害賠償請求をすることができる可能性もあります。
福崎法律事務所では、後遺障害認定、会社への損害賠償請求について、豊富な経験と実績がございます。ご相談者様のお話を丁寧にお伺いし、最善の解決策をご提案いたします。
初回のご相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。
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