「まさか自分が…」「家族が突然…」 働き盛りの方を襲う、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)や心筋梗塞といった脳・心臓疾患。もし、それがお仕事中に、あるいは過酷な労働が原因で発症したとしたら?
ご本人様もご家族様も、大変な状況におられることと存じます。治療や今後の生活への不安はもちろん、「仕事が原因だったのでは?」という疑問をお持ちかもしれません。
実は、仕事が原因で脳・心臓疾患を発症した場合、労災(労働者災害補償保険)として認定され、治療費や休業中の補償、さらには後遺障害に対する給付を受けられる可能性があります。さらに、会社の安全配慮が不十分だった場合には、会社に対して損害賠償を請求できるケースもあります。
私たち福崎法律事務所は、これまで多くの労災被災者の方々、特に脳・心臓疾患を発症された方とそのご家族様をサポートしてまいりました。
この記事では、仕事中の脳・心臓疾患について、労災認定のポイントや後遺障害、会社への責任追及について、分かりやすく解説します。
1.【労災認定の事例】脳卒中・心筋梗塞が労災と認められる典型パターン
どのような状況で発症した脳・心臓疾患が労災と関連付けられるのでしょうか。典型的には以下のようなケースが挙げられます。
・長時間労働:発症前1ヶ月間に100時間超、または発症前2~6ヶ月間平均で月80時間超の時間外労働(残業)がある場合。
・不規則な勤務:交替制勤務、深夜勤務、休日のない連続勤務など、身体への負荷が大きい勤務形態。
・精神的ストレス:日常的な業務における強いプレッシャー、上司や同僚とのトラブル、配置転換、セクハラ・パワハラなど、強い精神的負荷がかかる出来事があった場合。
・過酷な労働環境:高温・低温下の作業、騒音、時差のある海外出張など、身体に通常以上の負担がかかる環境での業務。
・異常な出来事:業務中に、生命の危険を感じるような突発的な事故や極度の緊張・興奮・恐怖を伴う事態に遭遇した場合。
これらの要因が複合的に絡み合っているケースも少なくありません。「うちのケースは当てはまるだろうか?」と少しでも感じたら、専門家にご相談ください。
2.【労災申請の条件】脳疾患・心臓疾患が労災と認定されるために必要な要件
脳・心臓疾患が労災と認定されるためには、厚生労働省が定める「過重負荷(過重労働)」(*)があったと認められる必要があります。具体的には、以下のいずれかの要件を満たすことが重要です。
・異常な出来事:発症直前から前日までの間に、精神的・身体的に極度の負荷を与える突発的または予測困難な異常な事態があったこと。(例:重大事故への遭遇、極度の恐怖体験など)
・短期間の過重業務:発症前おおむね1週間に、日常業務と比較して特に過重な業務に従事したこと(例:通常では考えられないような連続勤務、急なトラブル対応での徹夜作業など)
・長期間の過重業務:発症前おおむね6ヶ月間に、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事したこと。
・労働時間:特に発症前1ヶ月間に100時間超、または発症前2~6ヶ月間平均で月80時間超の時間外労働(残業)は、過重性の強い要因と評価されます。
・労働時間以外の負荷要因:不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多さ、精神的緊張を伴う業務、作業環境なども総合的に考慮されます。
(*)これらの「過重負荷」と「発症」との間に医学的な因果関係があることを、タイムカード、業務日報、メールの送受信記録、同僚の証言、医師の意見書などの客観的な証拠に基づいて立証していく必要があります。
3.【後遺障害の認定】脳・心臓疾患による労働能力への影響とは
懸命な治療にもかかわらず、残念ながら脳・心臓疾患の影響で、以前と同じように身体を動かせなくなったり、記憶や注意、といった能力に支障が残ってしまうことがあります。
このように、治療を続けても症状の改善が見込めなくなったと判断された状態(症状固定)で残ってしまった、労働能力に影響を与える精神的・身体的な不具合を「後遺障害(後遺症)」と呼びます。
労災保険では、この後遺障害の程度に応じて「障害(補償)給付」(年金または一時金)が支給されます。後遺障害の等級は、症状の種類や重さによって第1級(最も重い)から第14級(最も軽い)までに分類されており、どの等級に認定されるかによって受け取れる給付額が大きく変わります。
4.【後遺障害の種類】脳・心臓疾患による症状一覧
脳・心臓疾患に起因する後遺障害は多岐にわたります。代表的なものとしては以下のようなものが挙げられます。
神経系統の機能または精神の障害
麻痺(まひ):手足の動きが悪くなる、動かせなくなる。(片麻痺、四肢麻痺など)
高次脳機能障害:記憶力、注意力、集中力、計画・実行能力などが低下する。
(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など)
失語症:言葉を理解したり、話したりすることが難しくなる。
平衡機能障害:めまい、ふらつき、まっすぐ歩けないなど。
嚥下(えんげ)障害:食べ物や飲み物をうまく飲み込めない。
排尿・排便障害:尿意・便意を感じにくい、失禁するなど。
胸腹部臓器の機能の障害
心機能の低下:息切れ、動悸、むくみなどにより日常生活や労働に制限が生じる。ペースメーカーや、除細動器(ICD)の植え込みが必要になった場合も該当します。
眼の障害
視野障害:視野の一部が欠ける(半盲など)。
視力障害:視力が低下する。
その他の障害
疼痛(とうつう):身体の一部に持続的な痛みが残る。
関節可動域制限:麻痺の影響などで関節が動きにくくなる。
適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、医師による正確な診断書(後遺障害診断書)の作成と、ご自身の症状を的確に伝えることが非常に重要です。
5.【損害賠償請求の方法】会社の安全配慮義務違反と慰謝料請求等
労災保険からの給付は、被災された労働者の生活を支える重要な制度ですが、精神的な苦痛に対する慰謝料などは基本的に含まれません。
もし、会社が労働者の健康や安全を守るための配慮(安全配慮義務)を怠った結果、脳・心臓疾患を発症したと認められる場合には、労災保険からの給付とは別に、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
具体的には、以下のようなケースが考えられます。
・長時間労働の放置:会社が従業員の過重労働を把握していながら、改善措置(人員補充、業務分担の見直しなど)を講じなかった。
・健康診断結果の軽視:健康診断で異常所見があったにもかかわらず、適切な就業上の措置(業務軽減、受診勧奨など)を取らなかった。
・ハラスメントの放置:職場内でのパワハラやセクハラを知りながら、適切な対応をしなかった。
・労働環境の不備:危険な作業環境や過度なストレスがかかる業務体制を改善しなかった。
会社への損害賠償請求では、労災保険では補償されない慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)や、後遺障害によって将来得られるはずだった収入の減少分(逸失利益)の一部などを請求できる可能性があります。
ただし、会社の責任(安全配慮義務違反)を立証するには、労災認定とは別に、専門的な知識と証拠収集が不可欠です。
6.【無料相談受付中】労災申請・損害賠償は弁護士にご相談を
仕事中に脳・心臓疾患を発症された場合、労災申請や後遺障害の等級認定、そして会社への損害賠償請求は、いずれも複雑な手続きと専門的な判断が求められます。
「何から手をつければいいか分からない」「証拠集めが難しい」「会社との交渉が不安」…
このようなお悩みをお持ちでしたら、どうか一人で抱え込まず、私たち労災問題に詳しい弁護士にご相談ください。
福崎法律事務所では、脳・心臓疾患の労災申請・後遺障害認定、会社への損害賠償請求について、豊富な経験と実績がございます。ご相談者様のお話を丁寧にお伺いし、最善の解決策をご提案いたします。
初回のご相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。【03-6277-8802】