食品製造業における仕事中の事故による怪我は労災です
まず、労災保険を申請しましょう。
労災保険では、治療に要する費用の給付(療養補償給付)、休業に関する給付(休業補償給付)、後遺障害に関する給付(障害補償給付)等を受けることができます。
事業者(会社)に安全配慮義務違反がある場合には、この労災保険以外にも、会社に対して、損害賠償を行うことができます。
具体的には、労災保険では給付の対象ではない怪我を負ったことによる慰謝料、後遺障害が残ったことによる慰謝料、後遺障害による逸失利益等を請求することが考えられます。
食品製造業で起こりやすい労災事故
以下では、食品製造業で起こりやすい労災事故の事例を紹介します。
同時に、そのような労災事故が生じないための安全対策を示すことにより、この安全対策がとられていなかった場合には会社に安全配慮義務違反が認められる可能性があることを説明いたします。
はさまれ・巻き込まれの事例
事例① ベルトコンベアによる事故
ベルトコンベアを清掃中、労働者の手袋がコンベアに引き込まれて、手が挟まれ怪我を負ったという事故。
原因として、機械が稼働中に清掃を行っていたことや、安全装置が適切に機能していなかったことが考えられます。
事例② プレス機による事故
労働者がプレス機の調整を行っていた際に誤って操作し、腕が挟まれてしまったという事故。
原因として、機械の安全スイッチが無効になっていたことや、適切な操作手順が徹底されてなかったことが考えられます。
事例③ ミキサーによる事故
ミキサーの清掃中、労働者の袖がミキサーに巻き込まれ、腕を負傷したという事故。
原因として、ミキサーの電源を切らずに清掃を行っていたことや、袖の緩い作業服を着用していたことが考えられます。
こうした事例から、はさまれ・巻き込まれ事故が生じないようにするため、巻き込まれ防止のために適切なサイズの物で絞った袖口の作業服を着用すること、機械には安全ガードや緊急停止スイッチを設置し、緊急時には速やかに機械を停止させること、機械に異常が発生した場合は、直ちに使用を中止して会社による点検を実施することといった対策が考えられます。
逆に言えば、こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
転倒事故の事例
事例① 床の清掃中の転倒事故
清掃作業中に労働者が床にこぼれた油に滑って転倒して腰を強く打ち、休業を余儀なくされたといった事故。
原因として、清掃中に油が拭き取られていなかったこと、適切な滑り止め靴を履いていなかったことが考えられます。
事例② 段差による転倒事故
労働者が製造エリアから倉庫へ移動する際に、小さな段差に足を取られ転倒して足首を捻挫したといった事故。
原因として、段差が視認しづらく、段差が存在することの標識や注意喚起が不十分であったことが考えられます。
食品工場での転倒事故は、滑りやすい床、段差の存在、置かれた物が障害物となる等が主な原因です。
安全対策としては、床が水や油・食材で汚れている場合には定期的に拭き取る等して清潔に保つことや、滑りにくい専用の履物を使用するなどが必要です。
また、滑りやすいことや段差が存在することの標識を掲示することが安全対策として考えられます。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
墜落・転落の事例
事例① 階段からの転落事故
労働者が階段を降りる際に足を滑らせ、手すりがなかったために、階段の下まで転がり落ち、頭部に重傷を負ったという事故。
原因として、階段が滑りやすかったこと、手すりの設置が不十分であったことが考えられます。
事例② 棚からの転落事故
食品倉庫で、高い棚から商品を取ろうとした労働者が、適切な踏み台やはしごを使用せずに、棚によじ登って商品をとろうとしたため、バランスを崩し、墜落したという事故。
原因として、適切な作業用具が使用されていなかったことと、高所作業の安全対策が不十分であったことが考えられます。
食品工場では、高所での業務を行う作業が含まれることがあり、適切な安全対策ができていない場合、墜落や転落の事故が発生する可能性があります。
安全対策としては、高所での作業を行う際には必要な安全装備を使用すること、会社による教育指導を徹底することが重要です。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
動作の反動・無理な動作の事例
事例① 重い物の持ち上げによる腰痛
重い袋を持ち上げようとした労働者が、背中を丸めた状態で持ち上げたため、腰に過度な負担がかかり、腰痛を発症したという事故。
原因としては、適切な持ち上げ技術の教育が不足していたこと、重量物を扱うための補助具が提供されていなかったこと等が考えられます。
事例② 不適切な姿勢での作業による膝の負傷
低い位置でしゃがんだままでの作業を長時間繰り返した労働者が、膝に過度な負担がかかり、膝を痛めたという事故。
原因として、作業台の高さが適切でなかったことや、適切な姿勢で作業を行うよう教育指導が徹底されていなかったことが考えられます。
食品工場における作業では、不自然な体勢で、無理な体の動きや重い物の持ち運びを強いられ、それが日常的に反復継続されることから、過剰な身体負担となり腰痛や膝痛などの怪我の一因となることがあります。
この問題に対処するための防止策として、重量物の搬送を軽減する、作業空間を広くする、定期的な体操やストレッチの時間を設けるといった安全対策が考えられます。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
切れ・こすれの事例
事例① 包丁による切れ事故
包丁で魚をさばいていた労働者が、手袋を着用していなかったことから、深い切り傷を負ったという事例。
原因として、手袋を使用していなかったことや、適切な包丁の取り扱い方法が徹底されていなかったことが考えられます。
事例② スライサーによる切れ事故
スライサーでハムをスライスしていた労働者が、誤って手をスライサーの刃に当ててしまい、指に切り傷を負ったという事故。
原因として、安全ガードの未使用や、機械の操作ミス、教育の不徹底が考えられます。
食品工場の現場では、鋭利な刃物や機械による切削が行われますので、これによる怪我がありえます。
安全対策として、カット作業や機械の清掃時には耐切創手袋を着用し、衛生手袋を重ねて使用することが考えられ、また、刃物等の危険性についての指導教育を徹底させることが考えられます。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
薬品の事例
事例① 消毒剤による皮膚の火傷
高濃度の消毒剤を取り扱っていた労働者が、手袋を着用せずに作業を行ったため、消毒剤が手に触れて皮膚の火傷を負ったという事故。
原因として、適切な防護具を使用していなかったこと、安全な取り扱い方法が徹底されていなかったことが考えられます。
事例② 化学薬品の混合による有毒ガスの発生
労働者が異なる種類の洗浄剤を混ぜた際に、有毒なガスが発生し、吸入してしまい呼吸困難を起こしたという事故。
原因として、化学薬品の混合に関する教育不足や、作業手順の徹底不足が考えられます。
食品工場では、殺虫剤、洗剤、消毒液といった様々な化学薬品が日常的に使用されています。
これらを適切に扱うためには、正確な使用方法を指導教育すること、薬品が飛散して吸い込むリスクがある場合には適切な保護具を着用することを義務づけること等の安全対策が考えられます。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
騒音の事例
事例① 聴力障害の発生
長時間、騒音レベルの高い環境で作業を行っていた労働者が、耳栓や防音ヘッドセットを使用していなかったため、聴力障害を発症した事故。
原因として、適切な防音対策が講じられていなかったことが考えられます。
事例② 騒音による集中力低下と機械操作ミス
大きな騒音環境で作業をしていた労働者が、集中力が低下して機械の操作を誤り、手を負傷したという事故。
原因として、騒音によって注意力が散漫になり、機械の安全操作手順を誤ってしまったことが考えられます。
騒音レベルが高い工場では、作業員の聴力損失のリスクが存在します。
騒音の影響を軽減するためには、イヤーマフや耳栓の使用が効果的であり、騒音による防災を防止するためには、これらを使用させない合理的な理由がない限り、使用させるべきです。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
やけどの事例
事例① 熱湯による火傷
労働者が鍋を持ち上げようとした際、熱湯がこぼれ、防護手袋を着用していなかったことから、手にやけどを負ったという事故。
原因は、防護具の不使用、適切な作業手順の不徹底が考えられます。
事例② 蒸気による火傷
蒸気殺菌機を操作していた労働者が、蒸気バルブを開けてしまい、顔と腕に火傷を負ったという事故。
原因として、労働者が蒸気殺菌機の取り扱い方法を十分に教育されていなかったこと、安全装置が適切に機能しなかったことが考えられます。
事例③ 熱い油による火傷
フライヤーから揚げ物を取り出そうとした労働者が、誤って熱い油が跳ねて顔に火傷を負ったという事故。
原因として、防護具の不使用、適切な作業手順が徹底されていなかったことが考えられます。
食品加工工場では、加熱された調理器具の表面に触れたり、熱い食品の取り扱い中に、熱湯や高温の油が跳ねて肌に接触することで火傷が発生します。
安全対策としては、高い温度の鍋や調理器具を扱う際には、鍋つかみや耐熱性の保護手袋を使用すること、機械操作や油・熱湯の取扱い方法の指導教育を徹底することが考えられます。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
高温環境の事例
事例① 高温環境による熱中症
食品工場の乾燥室で長時間作業を行っている労働者が、休憩を取らずに作業を続けており、水分補給も十分に行っていなかったことから、熱中症を発症したという事故。
原因として、高温環境での作業管理が不十分であったことと、適切な休憩と水分補給の体制作りがなされていなかったことが考えられます。
高温環境下では熱中症のリスクが高まります。熱中症は本人が気づかぬうちに重症化することがしばしばあります。
このため、定期的に水分や塩分を補給させることや、定期的に体を冷やすことをルール化すること、あるいは冷却装置を整備することといった対策が考えられます。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
低温環境の事例
事例① 冷凍庫内での低体温症
冷凍庫内で長時間作業を行っていた労働者が、防寒具を着用しておらず、定期的な休憩も取っていなかったことから、低体温症を発症したという事故。
原因は、防寒対策の不備と作業管理の不足です。
事例② 凍傷による手の損傷
氷を取り扱う労働者が、手袋を着用せず、長時間作業を続けたことから、手に凍傷を負ったという事故。
原因として、防護具の不使用、作業手順の不徹底が考えられます。
冷蔵庫や冷凍庫などの寒冷環境下では、低体温症や凍傷のリスクが高まります。
安全対策として、手袋や防寒具等による保温対策が不可欠です。
こうした安全対策をとっていない事業者(会社)には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高いということになります。
重大な事故により、後遺障害が残るケースもあります
上記で、食品製造業で起こりやすい労災事故の事例を紹介いたしましたが、これらの事例からお分かりのとおり、重大な事故が生じることも多々あり、この場合には、後遺障害が残ってしまうというケースもありえます。
後遺障害が残った場合、当事務所ができること
労災保険からは、後遺障害の等級に応じた傷害補償給付が受けられます。
重要なことは、正しく認定をしてもらうことです。
医師は、治療の専門家ですが、後遺障害認定の専門家ではありません。
当事務所は、労災被害に遭われた方の後遺障害の申請のサポートに注力し、適切な障害診断書となっているか等のチェックを行うだけでなく、ご本人の労基署での面談時に上手く自身の症状を伝えていけるように、事前に打ち合わせ等を実施しサポートさせていただきます。
労災保険だけでは十分ではない!(会社に損害賠償請求をするという選択肢)
労災保険からの給付には、慰謝料(入・通院慰謝料、後遺障害慰謝料)はなく、後遺障害による将来の収入減少への補償が不十分である、といった点があげられます。
上記で紹介した各事例での安全対策を会社側がとっていない場合、会社の安全配慮義務違反が認められる可能性があり、この場合には、会社(事業主)に対して損害賠償請求をすることによって、労災保険給付だけでは不十分なこれらの点、すなわち、慰謝料、後遺障害による逸失利益等の賠償を受けられることになります。
弁護士への相談をお勧めする理由
食品製造業で労災事故に遭った場合には弁護士に相談することをお勧めします
その理由は、
・どのような請求が可能かの判断ができる
・どのような請求が可能かを知ることができます
例えば、労災に被災したにもかかわらず、労災隠しに遭っている場合に、労災保険の給付を請求できるのかの判断ができます。
また、会社(派遣先、派遣元)に対して安全配慮義務違反についての追及が可能かの判断ができます。
・会社との交渉や法的手続きを任せる
弁護士に依頼すれば、会社との交渉や法的手続を任せることが可能です。
労働者が一人で会社と交渉するのは、立場や知識などから極めて不利であり、適切な補償を受けられなくなる可能性があります。
また、訴訟等の法的手続を自ら行うのは非常に困難です。
弁護士に依頼すれば、これらを任せることができます。
会社に安全配慮義務違反がある場合には、労災保険ではカバーできない損害について請求することが可能なので、まずは弁護士に相談してみてください。
ぜひ弁護士にご相談ください。
労災に遭ってしまいお困りの方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
初回相談料は無料です。
お一人で悩まずに、まずは、お電話ください【03-6277-8802】。
メールやLINEでも相談可能です。